Dr Makoto’s BLOG

ボレロと水戸黄門 ~定番と繰り返し

音楽2018.11.19

先週まであんなに多かった落葉が落ち着いてしまい、いつ来ても不思議ではない初雪を、今か今かと待ち構えているような気分です。

「報酬系回路」というのをご存知でしょうか?
報酬系回路とは、食行動・性行動などの本能的行動を快感として感じ、種の保存のために欠かせない神経系のはたらきで、おもに脳内ドーパミンが大きく関与しています。種の保存までいかなくても、音楽や運動などの趣味や、様々な依存に関わる脳内システムとして、普段から私たちが無意識にコントロールしている、あるいはコントロールされている脳のはたらきでもあります。

実は、日常のテレビや音楽などには、報酬系回路に訴えるための、様々な仕掛けが散りばめられています。そのキーワードは「定番」・「繰り返し」ではないかと思っています。

水戸黄門で8時45分になると、満を持して登場する印籠のシーン。それまでのいろいろな掛け合いを経て、最終的には印籠で解決する、あのパターンです。あの「定番」で、不思議と高揚や安心を感じるようになり、「ハマる」ようになってしまいますが、実はドーパミン・報酬系回路にコントロールされている結果でもあります。前提として、このパターンを定番と感じるために、水戸黄門を何度か観るという「繰り返し」が必要になってくることは、なるほど合点がいくことでしょう。

音楽も然りで、初めて聴く音楽に感動することも多々ありますが、いいなと思った音楽を、繰り返し聴いていくことで、自分のなかで徐々に定番となっていきます。加えて、コンサートやライブなんかでその曲を聴くと、ドーパミンは最高潮となり、ますます報酬系回路に訴えかけ、「ハマる」ようになります。

有名なラヴェルのボレロという曲は、報酬系回路につよく訴え、ある意味中毒性が高い曲と言えるかもしれません。終始同じリズム・同じメロディーが繰り返され、初めて聴いた方でも、5分と経たないうちに、脳の中でいとも簡単に定番が形成されていきます。冒頭は耳をそばだてるような小さな音に始まりますが、気づかないくらいのクレッシェンドで音が徐々に大きくなっていき、約18分後に迎える最後は身体に響くような大音量で終えることも、ドーパミンを増やすのに実に効果的です。

歳を重ねていくことは、自分の定番が増えることでもあります。
音楽でも運動でも、自分に心地よいと思える定番を増やしていくことは、生活に高揚や安心を与えてくれるような気がしています。

 

廣谷 真

廣谷 真Makoto Hirotani

札幌パーキンソンMS
神経内科クリニック 院長

【専門分野】神経内科全般とくに多発性硬化症などの免疫性神経疾患、末梢神経疾患
眼瞼けいれん・顔面けいれん・四肢の痙縮に対するボトックス注射も行います。

【趣味・特技】オーケストラ演奏、ジョギング、スポーツ観戦、犬の散歩