Dr Makoto’s BLOG

パーキンソン病と痛み

パーキンソン病2020.02.24

先日クリニックに来られたパーキンソン病患者さん。
気持ちの良い関西弁で周囲を和ませてくれる、実に懐が広い男性です。

クリニックに通い始めてから、もう少しで2年を迎えようとしています。 レボドパ、ドパミンアゴニストなどを組みあわせ、リハビリテーションを継続しながら日々生活をされています。疲労が重なると手足の突っ張り・だるさが目立つ傾向にあり、ご家族の協力・理解を得ながら、日々の生活で休息をとる大切さを掴んでおられる印象でした。

ところが、昨年の秋より腰から太腿にかけての痛みが目立つようになってきました。 一日の時間を問わず立ち続ける姿勢が辛く、腰と膝を曲げるような姿勢にするといくらか痛みが和らぐ。とくに動き始めに腰から太腿の裏にかけてビーンと張るような痛みが出てきてしまうため、動くことが次第に億劫に、怖さを感じるようになっておられます。

彼のように、多くのパーキンソン病患者さんが何らかの痛みを抱えておられ、6割ほどの患者さんが、何らかの慢性的な痛みを感じていると言われています。なかでも腰痛がいちばん多く、そのほかにも手足の痛み・しびれ、肩こり、頭痛、ときにはお腹など内臓の痛みを抱える方もおられます。痛みの原因は実に様々で、パーキンソン病の症状に関連するもの(筋肉の硬さや動きの緩慢さによるもの)、大脳基底核のネットワークに関連するもの(ドーパミンやセロトニンの減少によるもの)、合併症に関連するもの(関節症、骨折、筋肉痛)など多くの要素が影響していると考えられています。

私は、パーキンソン病の痛みに対しては、とくに早い段階での対応が肝要と感じています。痛みが慢性化してしまうと、筋肉の硬さに加え、ドーパミンやセロトニンがさらに減少してしまい、さらには動きが減ってしまうことで筋力低下も加わってしまう。このように様々な要素が絡み合ってきてしまい、いっそう痛みを取り除くことが難しくなってしまうと感じているためです。この患者さんから、痛みのお話しを夏まで聞いたことがほとんどありませんでしたが、秋から比較的急に痛みの訴えを伺うようになりました。

彼はながくリハビリテーションを続けていますが、拝見するととくに腰から大腿後面の張りが徐々に目立ってきています。痛みのため気分的にも優れなくなり、外出や家事動作の機会も減ってきていている様子です。心配したご家族がまずは整形外科へ連れて行かれたそうですが、レントゲンなどで骨には大きな問題はなく、通常の鎮痛剤を内服しても一向に良くなる気配がありません。

腰から大腿にかけての張りが強く、腰や膝を曲げることによって痛みが和らぐ状態。彼の抱えている痛みで、いちばん影響しているのは腰から大腿後面筋肉が伸びることによる伸長痛、つまりは筋肉の硬さが影響していると考えられます。このような筋肉の硬さはジストニアとも呼ばれ、ドーパミンを増やすことで改善することもありますが、それだけでは不十分なことも経験します。この患者さんは抗コリン薬(トリキシフェニジル)というパーキンソン病治療薬を追加することで、先週来院したときにはだいぶ痛みが楽になったと、ほっと安堵した表情が印象的でした。そのほかにセロトニンを増やす薬も追加し、痛みが慢性化しないように全般に整えていくことも大切な方法と考えています。

廣谷 真

廣谷 真Makoto Hirotani

札幌パーキンソンMS
神経内科クリニック 院長

【専門分野】神経内科全般とくに多発性硬化症などの免疫性神経疾患、末梢神経疾患
眼瞼けいれん・顔面けいれん・四肢の痙縮に対するボトックス注射も行います。

【趣味・特技】オーケストラ演奏、ジョギング、スポーツ観戦、犬の散歩