Dr Makoto’s BLOG

パーキンソン病とセロトニン

パーキンソン病2020.04.05

先日クリニックに来られたパーキンソン病患者さん。
もともとは多趣味で活動的な彼女は、時間をつくって山登りにもよく行かれていました。
ところが、10年ほど前に胸が苦しくなり、心臓の治療も受けますが、それ以降の10年間、ながく胸の突き上げるような苦しさが続くようになってしまいます。
気分が優れずに、趣味の山登りにも行けなくなり、自宅で家事をこなすことも次第に難しくなってしまいました。
 
胸の突き上げるような苦しさに、心臓の検査も数え切れず受けてこられましたが、心臓の動きには問題ないと言われてきました。そして、5年ほどまえに前の病院でDATスキャンを受け、脳内のドーパミンが減っていることからパーキンソン病の診断を受けます。ドーパミンを増やすレボドパの治療が開始となりましたが、胸の突き上げるような苦しさは一向に良くならず、辛くなっていくばかりです。様々な病院を受診し、試した漢方薬も数え切れず…次第に食欲と体重が減り、日中も横になっている時間が増えてしまいました。
 
昨秋にクリニックへ初めて来られました。拝見すると、パーキンソン病でみられることが多いふるえや筋肉の硬さはほとんどなく、促すと比較的スムーズに歩くことができます。一方で、顔の表情に乏しく、声は小さくトーンも低い印象です。そして、とにかく胸の突き上げる感じがつらいと話されます。
 
「快楽ホルモン」とも呼ばれているドーパミン。このドーパミンが減少すると、快楽を感じにくくなってしまいます。そのために、楽しめない、美味しく食べることができない、すぐ飽きて疲れてしまうようになり、次第に気分が優れないと感じるようになってしまいます。
 
脳からはドーパミンのほかに、アドレナリン、セロトニンといったホルモンも分泌され、これらは三大ホルモンとも呼ばれています。パーキンソン病ではドーパミンがメインに減少しますが、ドーパミン減少の影響でセロトニンやアドレナリンも減少してしまう患者さんも多い印象を持っています。セロトニンが減少すると、不安やイライラを感じやすくなってしまい、アドレナリンが減少すると、やる気や意欲がわかないといった症状が出やすくなってしまいます。
 
パーキンソン病治療の基本は減っているドーパミンを増やすことですが、彼女はすでに、レボドパの治療を受けてこられました。そして、気分の優れなさからアドレナリンを増やす治療も受けてこられたのですが、その効果は実感できていない様子でした。彼女の気分の優れなさを詳しく伺っていくと、やる気や意欲がわかないといった症状よりも、やはり胸の突き上げるような苦しさがつよいのです。このように、どちらかというと身体症状が前面に出てしまうときには、セロトニンの減少が大きく影響している印象を持っています。セロトニンは不安やイライラに加え、食道から肛門にかけての消化管全般の動きに与り、また心臓の動きや痛みの感じやすさ、食欲にも影響すると言われ、アドレナリンと比較しても身体症状が出やすいと考えられています。
 
クリニックに来られて、彼女にはおもにセロトニンを増やす治療を開始しました。不安を感じやすい状態になってしまっている彼女とご家族には、治療効果が出るまで3カ月かかることを予めお伝えし、信じて治療を続けていくことを最初にお願いしました。
 
そして、クリニックに来て1カ月ほど経ってから少しずつ表情が和らいでいき、声も大きく張りが出るようになってきました。2ヶ月目から食欲が増えていき、ついに3カ月目には10年間続いてきた胸の突き上げるようなつらさがなくなったと笑顔で伝えてくれました。毎回測っている体重も次第に増えていき、少しずつ家事ができるようになっています。
最近は、待合室でご家族と談笑している声が診察室にも響くようになり、体調の良さを診察前から密かに感じることができています。

 

廣谷 真

廣谷 真Makoto Hirotani

札幌パーキンソンMS
神経内科クリニック 院長

【専門分野】神経内科全般とくに多発性硬化症などの免疫性神経疾患、末梢神経疾患
眼瞼けいれん・顔面けいれん・四肢の痙縮に対するボトックス注射も行います。

【趣味・特技】オーケストラ演奏、ジョギング、スポーツ観戦、犬の散歩