Dr Makoto’s BLOG

臭いとパーキンソン病

パーキンソン病2021.01.10

ステイホーム生活を続けている私たちにはとても残念なニュース、年明け早々に首都圏で緊急事態宣言が出されてしまいました。新型コロナウイルス感染症では、臭いがわかりにくくなる「嗅覚障害」を生じることがある…広く報道されるようになったため、多くの方がご存知ではないでしょうか。
 
実は、パーキンソン病患者さんの一部にも嗅覚障害を自覚する方がおられ、ここ10年ほどで注目が集まってきています。また、自覚症状までには至らないものの、検査をしてみると実は嗅覚が低下しているパーキンソン病患者さんが多いということもわかってきています。
 
患者さん向けのパンフレットなどを見ますと、「パーキンソン病は中脳黒質にレビー小体が蓄積し、ドパミン神経細胞が脱落する」という文章を、目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
このレビー小体というタンパク質は、さかのぼっていくと、なんと腸管から蓄積し始め、脳の延髄(迷走神経背側核)、そして中脳黒質へと拡がっていく。つまり、お腹から脳へ溜まっていくルートがあるのではないか、と考えられるようになっています。パーキンソン病患者さんに便秘が多いというのも、腸管の神経叢にレビー小体が溜まっているということが影響しているようです。
 
そして、このお腹から脳へ溜まっていくルートとは別に、脳にある嗅球という臭いを感知する神経からレビー小体が溜まっていくルートもあるのではないか、と考えられるようになっています。このルートでは、レビー小体が嗅球から蓄積し始め、大脳辺縁系の扁桃体、そして大脳皮質へと溜まっていくと推測されています。
 
先日クリニックへいらした患者さん。
数年前から臭いがわからなくなってしまったため、複数の耳鼻科を受診して検査をするものの原因がわからずにおられました。そして、なんとなく元気がない、ぼーっとしてきた様子を心配したご家族のすすめで、クリニックを受診されました。拝見しますと、嗅覚の低下に加え、軽度ではありますが筋肉の硬さや動作の緩慢さもみられます。DATスキャンではドーパミン集積が低下しており、総じて初期のパーキンソン病と考えられました。幸い運動症状は軽微ですが、パーキンソン病に関連する嗅覚障害がはやくから出ていた模様です。
 
目に見えない臭いの問題…パーキンソン病でも関係していることが多いようです。是非、頭の片隅に入れておいてみてはいかがでしょうか。
 

廣谷 真

廣谷 真Makoto Hirotani

札幌パーキンソンMS
神経内科クリニック 院長

【専門分野】神経内科全般とくに多発性硬化症などの免疫性神経疾患、末梢神経疾患
眼瞼けいれん・顔面けいれん・四肢の痙縮に対するボトックス注射も行います。

【趣味・特技】オーケストラ演奏、ジョギング、スポーツ観戦、犬の散歩