Dr Makoto’s BLOG

早期から十分な治療を続けたい ~特定医療費制度の軽症高額該当

パーキンソン病2023.01.15

季節外の暖かさとなった先週、冷えた週末はツルツル路面を苦労しながら歩いています。
ずっとこの暖かさが続いてくれれば良かったのですが、いよいよこれからが冬本番でしょうか。
 
クリニックへ通院して1年となるパーキンソン病患者さん。
まだまだ若い働き盛りの男性で、治療相談のためクリニックに来られたのが1年前です。右手のふるえことわばりが中心で、仕事でのパソコン操作などで苦労されながらも、歩行をふくめ日常生活は一通りこなしておられます。少量レボドパ治療の効果もあってふるえが軽くなり、現在は2ヶ月おきに受診されています。
 
レボドパの効果があって治療効果は実感している様子ですが、彼のふるえがなくなった訳ではありませんし、こわばりも残っています。今は仕事も生活も頑張って続けていますが、どうしても「5年後、10年後もしっかり仕事ができるだろうか、生活ができるだろうか」と、不安を抱えながら生活している様子です。
 
パーキンソン病には重症度というステージが決められ、いちばん軽症がヤール1度、重症がヤール5度というように、5段階に分類されています。彼のパーキンソン病の重症度はヤール1-2度相当と、分類上は軽症に該当します。このままの状態をながく維持できるように、たくさんの患者さんが薬剤治療やリハビリテーションなど日々工夫しながら頑張っておられます。薬剤については、早い段階からレボドパを多く使用すると、5年ほど経過して薬が効きにくくなるウェアリング・オフ現象の懸念もあり、なるべくレボドパに頼らないような治療を提案しています。レボドパ以外の薬剤…補助薬のひとつであるMAO-B阻害薬。補充したドパミンが脳内になるべくとどまるように働く薬剤で、パーキンソン病の早い段階から利用することで、将来的なレボドパの増量を抑えて、ながく病気を安定させる効果が言われています。
 
現在日本では3種類のMAO-B阻害薬が使用できますが、総じて値段が高いのがネックとも言えます。標準量の1日薬価(10割)が、エフピー®5㎎566円(最大10㎎1132円)、アジレクト®1㎎953円、エクフィナ50㎎930円(最大100㎎1860円)。健康保険の自己負担割合によりますが、3割負担でも1か月で5,000-8,000円と高価です。内服して数日で効果を実感しやすいレボドパとは異なり、MAO-B阻害薬は穏やかに効いてくる印象です。
 
パーキンソン病の指定難病医療費助成制度、いわゆる難病手帳をお持ちであれば、医療費自己負担に上限がつくようになりますので、経済的にはこのような高価な薬剤を使用しやすくなるメリットがあります。ただ、指定難病医療費助成制度はパーキンソン病のヤール分類3度以上ではじめて指定難病に認定する、というように、重症度で厳密に規定されています。
 
それでは、この重症度に該当しないような、早期や軽症の患者さんは医療費を通常に負担し続けなければならないのでしょうか?そのような方へ指定難病医療費受給制度の「軽症高額該当」という特例があります。
 
この「軽症高額相当」とは、特定医療費の支給認定の要件である重症度分類等を満たさないものの、月ごとの医療費総額が33,330円を超える月が年間3月以上ある患者さんについては、支給認定としますよ、というものです。クリニックではヤール1-2度といった軽症のパーキソン病患者さんでも、高額な薬剤を使用する場合には手続きを勧めています。これによって、毎月の医療費自己負担に上限がつくようになり、ながく治療を続けることができるように補助する制度です。
 
さきほどのMAO-B阻害薬を2ヶ月処方した場合には、33,330円(10割負担)を超えることが多いため、この2ヶ月処方を半年かけて3回行ない、高額であるという実績をつくることで、医療費助成制度に認定され、医療費の自己負担に上限がつくようになります。 彼も、MAO-B阻害薬の2ヶ月処方を開始してから、先日の診察で3回目の処方となり、今後軽症高額該当として医療費受給制度の申請をすすめる予定です。
 
なかなか、理解も手続きも複雑ではありますが、「症状の進行を防ぐために早い時期から治療をしたい」という希望・目的には避けて通れない手続きです。該当となる患者さんへはスタッフから丁寧に説明のうえ、案内をしています。
 
ひとつ、忘れてはいけない大切なことが
…かかった医療費を証明するための「領収書をしっかり保管しておくこと」です。


~藻岩山からみえる恵庭岳

廣谷 真

廣谷 真Makoto Hirotani

札幌パーキンソンMS
神経内科クリニック 院長

【専門分野】神経内科全般とくに多発性硬化症などの免疫性神経疾患、末梢神経疾患
眼瞼けいれん・顔面けいれん・四肢の痙縮に対するボトックス注射も行います。

【趣味・特技】オーケストラ演奏、ジョギング、スポーツ観戦、犬の散歩