Dr Makoto’s BLOG

ビフォー・アフター ~脊髄小脳変性症とリハビリテーション

クリニック2023.12.11

今年は本当に暖冬になるでしょうか?今のところ、札幌は雪が少なく、暖冬の予報があたりそうな気がしています。いつも冬シーズンが終わるときには、結局帳尻があうように雪が降ってきていているような…まだまだ冬は始まったばかりですね。どうか暖かくしてお過ごしください。
 
クリニックに通院されている患者さんは、パーキンソン病の方が多いのですが、脊髄小脳変性症の患者さんも多く通院されています。小脳は頭の後ろ・下側にある脳の一部で、脳全体がスムーズに働くことができるよう、おもに運動の微調整をしています。身体の繊細なバランスをとったり、手足を滑らかに動かしたり、スムーズに会話ができるのは、小脳が大きな役割を果たしているためです。
 
クリニックにながく通院されている脊髄小脳変性症の患者さん。元気ハツラツな彼女は、2週ごとにリハビリテーションに通院され、周りの雰囲気をパッと賑やかにしてくれます。彼女が診察室でよくつかう「ビフォー」「アフター」という言葉。リハビリテーションの前(ビフォー)と後(アフター)という意味で、リハビリテーションの前後で歩行や身体のバランスがだいぶ変わってくるというのです。
 
小脳が上手く働かなくなってしまうと、歩いていてなんとなくふらつく、書字や箸などの細かな動作がしにくい、呂律がまわりにくいといった症状が多くみられます。ふらつきを抑えるために体にグッと力が入ってしまう、ペンや箸を上手く使うために手に力が入ってしまう、スムーズに呂律をまわすために口や喉に力が入ってしまう…どれも無意識に小脳の働きをカバーしようとして行っているものです。この力をいれることは「代償」とも呼ばれ、ある程度必要なことではありますが、数カ月・数年と慢性的に力が入ってしまうと、関節や筋肉の本来持っている柔らかさが失われやすくなります。
 
本来は関節や筋肉が柔らかく動くことで、歩くときに地面からの衝撃を吸収したり、立ち上がるときに沢山の関節や筋肉が連動して動くようになっています。ところが、小脳の働きを代償するために慢性的に力が入ってしまうと、関節や筋肉の柔らかさが失われてしまいます。そのため、歩くときに腰や膝などを痛めやすく、歩行や立ち上がるときにかえってバランスを崩しやすくなってしまいます。
 
小脳のリハビリテーションでは、関節や筋肉のストレッチ、歩行のバランスを上手にとる練習、箸や書字などの細かな動作を高める練習、声を遠くにとばすような発声練習などをしていきます。いずれにも共通していることは、「力を上手く抜けるようにしていくこと」と考えています。入り過ぎてしまった力を少しでも抜けるようになると、関節や筋肉に柔らかさが増していき、身体の動きがスムーズになっていきます。

リハビリテーションを細くながく続けていくことは、「ビフォー」「アフター」の繰り返し・積み重ねとも感じています。
 
 
~オプタテシケ山に続く稜線

廣谷 真

廣谷 真Makoto Hirotani

札幌パーキンソンMS
神経内科クリニック 院長

【専門分野】神経内科全般とくに多発性硬化症などの免疫性神経疾患、末梢神経疾患
眼瞼けいれん・顔面けいれん・四肢の痙縮に対するボトックス注射も行います。

【趣味・特技】オーケストラ演奏、ジョギング、スポーツ観戦、犬の散歩