Dr Makoto’s BLOG

iPS細胞とパーキンソン病

パーキンソン病2018.08.10

先日7月30日に京都大学からパーキンソン病へのiPS細胞治験開始のお知らせがありました。ニュースや新聞でも大きく取り上げられたので、ご存知の方も多いことでしょう。
クリニックに来られた患者さんも、診察室はiPS細胞の話題で持ち切りでした。
 
なかでも「自分はiPS細胞治験にエントリーできますか?」という質問がおおかったので、今回はこの治験の内容を分かりやすく説明してみたいと思います。
 
今回の治験の正式名称は「iPS細胞由来ドパミン神経細胞を用いたパーキンソン病治療に関する医師主導治験」。京都大学附属病院がiPS細胞研究所と共同で行うもので、全国から7例の患者さんをを募集しています。
 
おもに対象となる患者さんは以下の通りです(選択基準)。

1 パーキンソン病である
パーキンソン病では振戦・固縮・動作緩慢・姿勢反射障害という4大症状が有名ですが、今回の治験のためにはMovement Disorder Societyという学会が提唱する診断基準(2015年版)に合致する必要があります。とても細かいので詳細は割愛しますが、いちばん重要なのは「ドーパミン治療で症状が良くなるのがパーキンソン病」という点です。
 
2 既存の薬物治療では症状のコントロールが十分に得られていない
おそらく多くのパーキソン病患者さんが何らかの薬物治療を受けておられると思いますが、発症してからの期間が長くなると(5年以上)ドーパミン治療にも関わらず、薬が効きにくくなる時間帯(オフ)が出現することがあります。そのような場合に、私たちは様々な薬物治療や生活指導でなんとか薬が一定に効くように調整するのですが、手足や体幹がクネクネと動いてしまうジスキネジア(不随意運動)や薬剤性の幻覚が出てしまい、治療に難渋することもあります。

3 同意取得時の年齢が50才以上70才未満である
4 罹病期間が5年以上である
5 オフ時のHoehn&Yahr重症度分類がstageⅢ以上である
6 オン時のHoehn&Yahr重症度分類がstageⅢ以下である

ドーパミン治療が効いている状態(オン)がHoehn&Yahr(ホーエン・ヤールと読みます)という5段階の重症度(Ⅰが軽症でⅤが最重症)で「Ⅲ以下とは、(大まかにいうと)しっかり自分で安定して歩ける状態」、「Ⅲ以上とは歩行が難しく介助を要することが多い状態」、とイメージしてみてください。ごく簡単に言いますと「薬が効いていれば歩けるが、切れると歩けなくなる」ようなパーキンソン病患者さんが対象ということになります。
 
7 L-ドパ反応性が30%以上である
パーキンソン病の重症度分類は前述したホーエン・ヤール分類のほかに、UPDRS(Unified Parkinson’s disease Rating Scale)という、もう少し詳しいスケール(尺度)があります。振戦の強さや、歩行の状態や、筋固縮の状態などをひとつずつ細かく点数化して、パーキンソン病症状を点数化するというスケールです。「ドーパミン治療によってどれくらい症状が良くなるか?」というのを、治療前後のUPDRS点数付けをおこない(とくにpartⅢ分野)、30%以上よくなるというのが、パーキンソン病として治療が効いているという客観的な裏付けになっています。
 
そのほかにも、DATスキャンという脳内のドーパミンを画像化した検査(保険診療で一般的に行われています)で、画像的にもパーキンソン病であることが確認できる、といった条件もあります。
また、対象とならない条件(除外基準)も詳しく定められており、認知症、悪性腫瘍、てんかんなどを持っておられる方は対象にはなりません(そのほかにも多くの基準があります)。
 
今回の治験では、このような細かな基準に該当した患者さんの脳へ、iPS細胞から作成した(パーキンソン病で減少する)ドーパミン神経細胞を移植するという手術が行われます。この手術は「定位脳手術」と呼ばれ、パーキソン病に対する脳深部刺激療法で用いられている手術で、一般的にすでに行われている治療です。
 
パーキンソン病患者さんのドーパミン神経細胞が正常に回復すれば、ドーパミンの分泌が回復し、症状が回復すると期待されています。ただし、iPS細胞から作成したドーパミン神経細胞が際限なく増えてしまうようなことがあれば、新たな症状・合併症がでてしまう懸念や、移植に関しての拒絶反応という懸念もあります。今回の治験は、まず7例という少数の患者さんを対象に、その安全性が調べられるということがテーマです。安全性が確認された暁には、患者さんの数を拡大して、詳しい効果を調べる治験へと入っていくものと思われます。
 
世界中が注目しているパーキンソン病へのiPS細胞治療。是非とも安全に、そして効果が証明されることを願ってやみません。
 
ここではごく簡単に概要を触れていますので、詳細は京都大学附属病院のホームページ
http://www.kuhp.kyoto-u.ac.jp/ips-pd.html
をご覧いただくか、スタッフへご相談ください。
(今回のブログで記載した基準等は同ホームページより引用しています)

廣谷 真

廣谷 真Makoto Hirotani

札幌パーキンソンMS
神経内科クリニック 院長

【専門分野】神経内科全般とくに多発性硬化症などの免疫性神経疾患、末梢神経疾患
眼瞼けいれん・顔面けいれん・四肢の痙縮に対するボトックス注射も行います。

【趣味・特技】オーケストラ演奏、ジョギング、スポーツ観戦、犬の散歩