Dr Makoto’s BLOG

ほっと安堵して ~レボドパ・カルビドパ経腸用液療法・LCIG

パーキンソン病2019.10.21

札幌でオリンピックのマラソン・競歩が開催される。
札幌市民としては嬉しい限りですが、狐につままれたかのような展開に、今でも信じられない気分です。
紅葉シーズン、先日訪ねた恵庭渓谷の美しい紅葉と滝は見頃を迎えていました。

パーキンソン病へのレボドパ・カルビドパ経腸用液療法(LCIG療法)をご存知でしょうか?
多くのパーキンソン病患者さんは減少するドーパミンのためにドーパミンを補充する内服治療を受けています。
これまでのブログでも触れてきましたが、とくにレボドパでの治療期間が長くなってくると、薬の効きが弱くなってくるウェアリング・オフや、ジスキネジアと呼ばれるような不随意運動が出やすくなってしまいます。

運動合併症とも呼ばれるこのような状態を起こさず、ながく病状が安定するように、早期から様々な対策を立て患者さんと治療をすすめています。レボドパ治療を適切な量にすることに加えて、CDS(continuous dopaminergic stimulation)と呼ばれるドーパミン濃度を一定に保つような治療、リハビリテーション、さらにはご自分の脳からドーパミンの分泌を促すような日常生活の工夫は運動合併症の予防に欠かせないものになっています。

パーキンソン病の運動合併症に対して様々な治療・内服調整が行われてきましたが、2016年より新たにLCIG療法ができるようになりました。一言で言うなら、「レボドパを内服ではなく、チューブを介して直接小腸へ持続的に投与する、ポンプを使った治療」です。具体的には、入院して胃瘻と呼ばれる孔を腹部に作り、そこからチューブを入れて小型の携帯用のポンプを使って薬を投与することで小腸へ持続継続投与を行うものです。

レボドパの内服では、小腸からの吸収後に血中濃度が一気に高まり、その後一気に下がるという「山と谷」が出来てしまい、これが運動合併症の一因とも言われています。LGIG療法でレボドパを小腸へ一定量で持続的に投与する、つまり「山と谷をなくす」ことで、運動合併症を減らすことが可能となったのです。

先日クリニックにこられたパーキンソン病患者さん。ながく運動合併症に苦しみ、ここ数年は歩くことも難しくなってきていました。この夏にLCIG療法を導入し、先日、退院後初めてクリニックに戻って来られたのです。

LCIG療法導入のため本院(北祐会神経内科病院)入院中は大変な時期もありましたが、ご本人の強い気持ちとご家族の懸命な援助もあって、本院スタッフの関わりのもと無事導入し退院することができました。

退院後に初めてクリニックへ来られたとき、表情は以前よりもだいぶ明るくなり、朝食も自分で摂れるできるようになっていました。入院と自宅での生活は求められる活動量が異なり、自宅ではもう少しレボドパの投与量を上げる必要が出てきます。自宅での様子を伺いながら、ポンプによるレボドパの設定量を調整していき、翌週の受診時には昼の食事も自分で摂れるようになり、調子の良い時間がだいぶ増えてきました。さらに、これまでながく車いす中心の生活を余儀なくされていましたが、診察室では歩けるようにまで回復しました。1年以上ぶりに歩く姿に、ご本人のとても嬉しそうな表情に加え、ご家族のほっと安堵した表情・少し涙ぐまれている様子が印象的でした。

まだまだLCIG治療は始まったばかりです。LCIG療法をきっかけに、調子の良い状態がこれからもながく続き、ご本人・ご家族の穏やかな表情を見届けることができるよう関わって参ります。
 

廣谷 真

廣谷 真Makoto Hirotani

札幌パーキンソンMS
神経内科クリニック 院長

【専門分野】神経内科全般とくに多発性硬化症などの免疫性神経疾患、末梢神経疾患
眼瞼けいれん・顔面けいれん・四肢の痙縮に対するボトックス注射も行います。

【趣味・特技】オーケストラ演奏、ジョギング、スポーツ観戦、犬の散歩