Dr Makoto’s BLOG

パーキンソン病の前傾姿勢 ~ドパミンアゴニストとの関係

パーキンソン病2020.01.26

パーキンソン病の患者さんには、筋肉の硬さが影響し、顔や上体が下を向いてしまう前傾姿勢を拝見することがあります。
この前傾姿勢、実はパーキンソン病の症状として出るほかに、薬剤(主にドパミンアゴニスト)で出ることも知られています。

*ドパミンアゴニスト…レキップ®・ニュープロ®・ミラペックス®など
*レボドパ…マドパー®・ドパコール®など


先日クリニックに来られたパーキンソン病患者さん。
普段からご自分の体調を実に注意深く観察され、来院時にはその変化を細かく伝えてくださいます。

仕事を定年退職されたのも束の間、ご家族の介護をされていたときは、疲労や不眠が重なり体調が不安定となる時期がありました。そんななかでも、彼女は毎日の取り組み…身体を温める・ストレッチを取り入れる・休息を上手くとることなどで、体調は安定してきていました。

ところが、2ヶ月ほど前より、姿勢の前かがみが目立つようになり、腰痛も感じるようになってきました。それまでできていた家事がしにくくなってきて、動作も全般に時間がかかってきています。次第に不安が募っていき不眠となり、食欲が低下したために身体が細くなってきた印象です。

このようなときに、パーキンソン病自体の進行で前傾姿勢となっているのか、薬剤の影響で前傾姿勢となっているのか、実に判断が難しいです。少量のレボドパとドパミンアゴニストを内服している彼女が、比較的急に前傾姿勢となったことなどから、まずはドパミンアゴニストの影響を疑いました。そして、彼女と相談のうえドパミンアゴニストを休薬したところ、前傾姿勢と腰痛がだいぶ良くなってきました。

ドパミンアゴニストは一日1回の内服で、一日を通して効果がある、いわゆる「底上げ効果」があることが利点です。一方で、レボドパは一日3回程度内服を必要とし、内服期間が長くなると薬効が切れてしまう「ウェアリング・オフ現象」が出やすい。その予防・カバーのために早期からドパミンアゴニストを使うことが増えています。

ドパミンアゴニストを休薬すると、その分のドーパミンが減少してしまいますので、レボドパを増やす必要が出てきます。彼女もレボドパを少し増量したのですが、「どうしても内服4時間後には薬が切れるようになる」のを感じるようになり、はじめてウェアリング・オフ現象を実感したとおっしゃいます。レボドパが効いている時間はとても体調が良くなりますが、オフになると身体の動きが大変になることに加え、気分的にも優れなくなってしまいます。これまでドパミンアゴニストの底上げ効果を実感できなかったことは致し方なく、中止してはじめて実感されたようでした。

そして、彼女の判断で、数日間ドパミンアゴニストを再開したところ、思った通りにウェアリング・オフ現象は改善しましたが、再び腰痛が出てくるようになってしまいました。

レボドパだとウェアリング・オフ現象が出てしまう、ドパミンアゴニストだと前傾姿勢・腰痛が出てしまう。このジレンマをどうやって解消していくか、毎週来院の度に上手い塩梅を一緒に探っていきます。

現状では、ドパミンアゴニストを減量し、昼に内服するレボドパが切れやすい15時にレボドパを追加することで、一日を通してなるべく薬効が持続するように調整しています。前傾姿勢・腰痛が解消し、一日を通じて調子の良い時間が増えてくると、気分的にも安心・安定するようです、不眠・食欲低下も改善し、彼女のもともとの表情が戻ってきました。
そうなると、彼女の脳からのドーパミン分泌も増え、良い循環に入ってくると、きっと体調がさらに安定してくることでしょう。


*パーキンソン病の前傾姿勢・腰痛が、病状の進行による場合には、ドパミンアゴニストを増やすことで改善することもありますので、ドパミンアゴニストを増量するか・減量するかは患者さんの状況によって異なることをご注意ください。

廣谷 真

廣谷 真Makoto Hirotani

札幌パーキンソンMS
神経内科クリニック 院長

【専門分野】神経内科全般とくに多発性硬化症などの免疫性神経疾患、末梢神経疾患
眼瞼けいれん・顔面けいれん・四肢の痙縮に対するボトックス注射も行います。

【趣味・特技】オーケストラ演奏、ジョギング、スポーツ観戦、犬の散歩