Dr Makoto’s BLOG

火事場の馬鹿力

パーキンソン病2020.11.07

北大のイチョウ並木に見とれていたのも束の間、札幌にもとうとう初雪が降りました。
季節は着実にすすんでいるようです。
 
本日クリニックに来られたパーキンソン病患者さん。
めっきり寒くなってきた話をしていたところ、茶目っ気たっぷりに「寒くなって震度4になりました~」と、ご自身のふるえが目立っていたことに苦笑いされていました。これまで私がお会いしてきたパーキンソン病患者さんで、「震度」という表現をされた方ははじめてだったので、不意をつかれた気分と、思わず膝を叩いてしまうような気分になりました。
 
私がまだ仕事駆け出しの頃に、帯広で勤めていたときのことです。2003年9月26日朝4時50分、十勝沖地震が発生し、帯広は震度5を記録しました。就寝中の私もさすがに飛び起き、人生で初めての大地震にあたふたしていました。病院に向かおうと車に飛び乗ってみたものの、信号は全部消えていて街中は真っ暗。やっと着いた病院の内壁の一部には亀裂が入っています。なかなか動くのも大変な患者さんがたくさん入院しておられたので、無事かどうかが気になります。そして、階段を駆け上って病棟に着いたところ、幸い大きな影響がみられないことに、ほっと一安心していました。
 
そんななか、いつもか細い声で「うごけないのよ…」と、渋い顔をしていた60代の女性パーキンソン病患者さん。入院して薬の調整やリハビリテーションをしても、なかなかすっと動けるようにならず、どうしたものかと考えていた頃でした。実は、そんな彼女が、地震のあと一目散にベッドから立ち上り、すごい勢いで走って避難していました。そして、地震が落ち着くと、また普段のか細い声・渋い顔の様子に戻っておられました…。
 
仕事駆け出しの私には、「こんなことがあるんだ」と不思議でなりませんでした。火事場の馬鹿力とはよく言ったもので、彼女の脳内では地震によってドーパミンが一気に増えていたのでしょう。
 
ちなみに、2016年の熊本地震がパーキンソン病患者へ与えた影響についての研究があります。26%の患者さんは地震によってパーキンソン病の調子が優れなくなりましたが、一方でパーキンソン病の症状が良くなった患者さんも26%いたそうです(堀ら 臨床神経 2017)。脳への刺激というのは思わぬ影響を与えることがあるようです。
 
クリニックからの帰り道の地下鉄。震度のはなしから、ふと昔のことを思い出していました。

 

廣谷 真

廣谷 真Makoto Hirotani

札幌パーキンソンMS
神経内科クリニック 院長

【専門分野】神経内科全般とくに多発性硬化症などの免疫性神経疾患、末梢神経疾患
眼瞼けいれん・顔面けいれん・四肢の痙縮に対するボトックス注射も行います。

【趣味・特技】オーケストラ演奏、ジョギング、スポーツ観戦、犬の散歩