Dr Makoto’s BLOG

自宅でながく暮らしたい 

クリニック2021.10.11

クリニックに通院している多系統萎縮症の女性患者さん。
多系統萎縮症(MSA-P)という病気は、最初の頃はパーキンソン病との見分けが大変むずかしい病気です。経過をみていくうちに、パーキンソン病と比較して症状の進みかたがはやく、また、効いていたと思われるドーパミン治療の効果も限定的になってしまいます。そして、起立性低血圧などの自律神経症状が強く出てくるようになると、多系統萎縮症へ診断を改めることも、臨床の現場では経験します。
 
彼女は札幌へ転居したときからクリニックに通院され、毎週のように外来リハビリテーションに精を出しています。とても穏やかでチャーミングな彼女ですが、どうしても症状が目立っていくことへの不安が大きい様子です。彼女の素晴らしいところは、当院のスタッフはもちろん、訪問看護ステーションの看護師やリハビリスタッフへ、その都度感じている気持ちを正直に伝えてくれるところと感じています。今は、彼女とご家族ともに、自宅で長く暮らしたいと、はっきりした希望をお持ちです。
 
在宅を支えているスタッフは、クリニックのスタッフに加えて、ケアマネジャー・訪問介護士、訪問看護師・リハビリテーションのみなさんが彼女を支えています。幸いにもこれまで肺炎などの大きな合併症なく過ごしておられるのは、彼女とご主人の頑張り、在宅を支えているスタッフの関わりによるところか大きいと感じています。今は、なかなか上手に言葉を伝えることが難しい彼女へ、コミュニケーションを上手く図れるように、試行錯誤しながら様々なコミュニケーションツールを導入しています。
 
彼女は1年ほど前から、食事や薬の内服が少しずつ難しくなってきています。自宅でながく暮らしたいとの希望に沿えるよう、この数か月は時間をかけて胃瘻を少しずつ提案し、話し合いをしてきました。これから短期間の入院で胃瘻を造設することが決まり、ゆくゆくは気管切開も予定されています。訪問看護ステーションの計らいで、実際に胃瘻造設や気管切開をした患者さんの様子をご覧になり、イメージがついたことも大きかったようです。
 
胃瘻や気管切開などが選択肢として出てくるとき、実際に、いつまでに・どこまで行うかというのは、どこで療養するか(在宅・病院・施設など)、患者さんの気持ちやご家族の理解、患者さんの年齢や合併症の程度など、様々な要素を考えながら相談をすすめていきます。
一般的には、肺炎などの合併症が出てから止むを得ず胃瘻や気管切開が行われることも拝見しますが、少し先の状態を予測して、患者さんとご家族が納得できるように、計画的にすすめていくことが私たちの役目と感じています。とても頼もしいご主人は、「やれるとことまでやってみます」という覚悟をお持ちです。そして、その言葉を聞いた彼女の安心した表情がとても印象的です。
 
近々、首をながくして待っていた娘さんの晴れ姿を、ご主人と一緒に観に行かれるそうです。とっても穏やかで良い表情をしています。

 

廣谷 真

廣谷 真Makoto Hirotani

札幌パーキンソンMS
神経内科クリニック 院長

【専門分野】神経内科全般とくに多発性硬化症などの免疫性神経疾患、末梢神経疾患
眼瞼けいれん・顔面けいれん・四肢の痙縮に対するボトックス注射も行います。

【趣味・特技】オーケストラ演奏、ジョギング、スポーツ観戦、犬の散歩