Dr Makoto’s BLOG

パーキンソン病治療薬と年齢・認知機能の関係

パーキンソン病2025.05.19

ライラックまつりの季節となり、いよいよ札幌にも屋外のイベントシーズンがやってきました。日中は汗ばむような日も出てきて、アイスクリームやビールなんかを楽しんでいた方も多かったのではないでしょうか。
 
先日クリニックに来られたパーキンソン病患者さん。御年90代の女性です。他院でパーキンソン病の治療を受けてきましたが、今年に入ってから札幌へ転居されました。ここ数カ月で身体の調子が優れず、身の回りの動作や飲み込みに時間を要するようになり、食事量も減ってしまったために、クリニックを受診されました。お話をしていると、受け答えは90代とは思えないようなしっかりした様子です。
 
パーキンソン病の薬剤治療をすすめるにあたって、しっかりとした効果を期待することはもちろんですが、副作用をなるべく出さないようにするということも大切です。この副作用には、長い目でみると、レボドパを始めてから5年ほどで出ることがあるウェアリング・オフやジスキネジアなといった副作用、そして、もう少し短期間でみると、治療薬開始から数週で出ることがある眠気や幻覚といった副作用があります。この眠気や幻覚は、薬剤を開始して比較的早く出る副作用のため気づきやすく、レボドパやドパミンアゴニスト、補助薬(MAO-B阻害薬など)といった薬剤によっても出やすさが変わってきます。一般的には年齢や認知機能よってこれらの薬剤を使い分ける方法が推奨されていて、年齢については目安として70~75歳がひとつの境とされています。
 
彼女とご家族に詳しくお話を伺っていくと、彼女の場合には、消化管でレボドパとドパミンアゴニストが十分に吸収されず、ドーパミン濃度が低くなってしまったことが、調子を崩した一番の要因と思われました。そして、食事量が減ってしまうと、当然のことながら胃腸の動きも低下してしまいますので、さらに薬剤の吸収が低下してしまうサイクルになっているようです。まずは、レボドパが消化管でしっかり吸収されるように、レボドパの内服タイミングを食後から食前へ変更し、また内服回数を増やしていくこととしました。また、消化管吸収の影響を受けにくくするために、ドパミンアゴニストを内服薬から皮膚への貼付薬へ、剤型を変更することとしました。
 
しっかりとした効果を期待しての薬剤調整ですが、同時に眠気・幻覚といった副作用にも細心の注意を払っていきます。実のところ、90代という年齢を考えると、とくにドパミンアゴニストを使用するのはどうしても慎重になってしまうところがあります。それでも、現在困っている症状をすこしでも楽にしたい、そして彼女のしっかりした認知機能をみて、いざ薬剤を変更することにしました。
 
薬剤を変更してから、先日クリニックにいらしたときのことです。身の回りの動作や飲み込みもだいぶ楽になったとのこと、また食事量もだいぶ回復してきましたと、にこやかに答えた表情が印象的でした。眠気や幻覚といった副作用も今のところ見られず、私もホッと安心しているところです。医療者側はどうしても副作用を懸念して治療選択を狭めてしまうこともありますが、彼女のように上手くいった治療効果を体感すると、年齢だけで治療選択を狭めてしまうことは大きな損失と思えてきます。このあたりの繊細な治療は、各医療機関でどれくらい繊細な・難しいケースを経験してきたか、あるいは医療機関の熱量によっても異なるところかもしれません。
 
たまたま、先日参加した講演会では、同じようにご高齢のパーキンソン病患者さんへ、治療が功を奏した症例を拝聴しました。演者の先生とも、年齢だけでは治療薬をクリアカットに選択できない、患者さんの日頃からの活動量や認知機能、意欲などを総合的に考えて治療していくことが大切との意見を共有できました。なかなかガイドラインには書かれていない繊細な・難しいケースの患者さんはたくさんおられます。このように背中を後押しをしてくれるアドバイスやデータは、私がさらに診療をすすめるにあたっておおきな自信になりそうです。
 

春の中島公園・豊平館

廣谷 真

廣谷 真Makoto Hirotani

札幌パーキンソンMS
神経内科クリニック 院長

【専門分野】神経内科全般とくに多発性硬化症などの免疫性神経疾患、末梢神経疾患
眼瞼けいれん・顔面けいれん・四肢の痙縮に対するボトックス注射も行います。

【趣味・特技】オーケストラ演奏、ジョギング、スポーツ観戦、犬の散歩