Dr Makoto’s BLOG

演奏家とジストニア

音楽2017.03.31

ジストニアという病気(症状)をご存知でしょうか?

手足や口などを動かすためには、複数の筋肉が連動しています。
例えば手を握る、開くという動作をするためには、ある筋肉に力が入ると同時にある筋肉が緩むことではじめて、
手を握る、開くという動作ができるようになります。
この筋肉の調整は無意識に行われているのですが、この調整がうまくいかなくなるのがジストニアという病気(症状)です。

パーキンソン病の方にジストニアが起こりやすく、姿勢が前かがみになったり、首が下がったりしてしまうのも、
ある特定の筋肉に必要以上に力がはいってしまうために起こると考えられています。

健康な方でもジストニアが起こることがあり、
ペンを持って字を書くときに力がはいってしまい上手く字が書けなくなる「書痙」、
眼の周囲の筋肉に力が入って眼が閉じてしまう「眼瞼痙攣」もジストニアです。

手や口をよくつかう音楽家にもジストニアが起こることが昔から知られており、
そのために演奏を断念せざるを得なくなるという話も聞きます。
トランペットを吹くのに唇に力が入ってしまう、ピアノを弾くのに手に力が入ってしまう、
バイオリンを弾くのに手が痙攣する、といった症状が出てしまいます。

日本の音大生480人を対象にした調査で、1.25%の学生にジストニアが生じているという、
とても貴重な論文が2015年に報告されました。
(音楽大学生における音楽家のジストニアの実態調査 小仲 邦ら 臨床神経 2015;55:263-265)

「手や唇がうまくコントロールできないのは練習が足りないからだ」を思って練習をしすぎると、
ジストニアの症状は却って悪化してしまいます。
力が入ってしまうこと状態が「普通の状態」と大脳皮質が誤って認識してしまう影響と言われています。
一昔前ですと「根性論」として、がむしゃらに練習をしていたかもしれませんが、
ジストニアには、しっかり休息をとって「力が入りすぎないのが普通の状態」と脳に認識させることが大切です。
ジストニアという病気(症状)を知っていれば対処しやすいのですが、この論文ではジストニアを知っている学生は
わずか29%で、多くの学生がジストニアを知らないということも報告されました。

私も趣味で楽器(バイオリン)を弾いており、幸いジストニアにはなっていませんが、
これまで何人ものジストニアの音大生・音楽家を診療したときには非常に胸が痛みました。
重度のジストニアは治療が難しいのですが、早期であれば生活指導・内服治療・ボトックスで良くすることが可能です。
音楽をする人に限らず、ジストニアを持っておられるすべての方が、早い段階でジストニアと認識し、
適切に治療が受けられることを切に願っています。

写真は有名な作曲家ロベルト・シューマン。
彼も手にジストニアがあったためにピアノ演奏家を諦め、作曲に専念しています。
右手の第3・4指にジストニアが強く出たために、
彼の作品には右手中指を使うことなく演奏できるよう作曲された曲もあるそうです。

廣谷 真

廣谷 真Makoto Hirotani

札幌パーキンソンMS
神経内科クリニック 院長

【専門分野】神経内科全般とくに多発性硬化症などの免疫性神経疾患、末梢神経疾患
眼瞼けいれん・顔面けいれん・四肢の痙縮に対するボトックス注射も行います。

【趣味・特技】オーケストラ演奏、ジョギング、スポーツ観戦、犬の散歩