Dr Makoto’s BLOG

ドパミンアゴニストと底上げ ~ドーパミン濃度を一定に

パーキンソン病2022.10.16

10月に入って新たな看護師がクリニックのスタッフに加わりました、経験豊富で柔らかな語り口の女性スタッフです、どうぞお気軽にお声かけくださるとありがたいです。
 
先日クリニックにいらしたパーキンソン病患者さん。働き盛りの男性で、責任の大きな仕事に日々励んでおられます。手がふるえるようになったため、数年前に前医を受診したところパーキンソン病であることが分かり、治療が開始となりました。ところが、今年に入ってから、手足が勝手に動いてしまうために仕事や日常動作がぎこちなくなり、また薬の切れる時間が増えてきました。今回ご家族と一緒にクリニックへ相談に来られました。
 
クリニック診察のタイミングでは、彼曰く「少し薬が切れている状態で、4割くらいの動きの状態」でした。拝見しますと、両手のふるえが断続的にあり、左側中心に手足のこわばり(固縮)がみられます。手足の動きにぎこちなさはありますが、起き上がりや歩行は可能です。足の上がりが若干小さく、すり足になる傾向がありますが、方向転換は比較的スムーズです。ちなみに、薬がしっかり効いている時間帯の様子を伺いますと、「手足が勝手にクネクネ動いてしまい、キーボードや細かな動作がしにくくなってしまう。そして、気分が落ち着かず、じっとしていられない気分になる」とのお話です。
 
パーキンソン病の薬剤治療、とくにレボドパが開始となってから、最初の5年ほどは非常に安定した効果が出てきますが、5年ほど経過してから薬効に波が出やすくなると言われています。ウェアリング・オフと呼ばれる現象です。レボドパが丁度良い頃合いを超えて効き過ぎてしまい、身体がクネクネ動いてしまうジスキネジアと言われる不随意運動が出てしまいます。このときには気分もソワソワと落ち着かなくなる方も多いようです。その後、レボドパの効果が当初の5-6時間ほどまで持たずに、2-3時間で切れてしまう、オフと呼ばれる状態になってしまいます。レボドパの効果が安定せずに、「効き過ぎの状態とオフ状態」になってしまうのです。
 
以前のブログでも紹介しましたが、なるべくドーパミンの濃度を均一に保つような治療、CDS (=Continuous Dopaminergic Stimulation)という考え方が現在のパーキンソン病治療の主流です。毎年のように新しいパーキンソン病治療薬が発売されていますが、古くからあるレボドパが今も一番効果が高いのです。ひとつレボドパの難点は、効いている時間が短く、ドーパミン濃度が変動しやすいという点です。一方で、もうひとつ主流のドパミンアゴニストは、1日1回の内服(もしくは貼付)で24時間安定してドーパミン濃度が保たれるのが特徴です。働き盛りの若い患者さんには、程度の差こそあれ、ドパミンアゴニストを取り入れることが多いのは、CDSという考え方から、ドーパミン濃度をなるべく一定にして、ウェアリング・オフやジスキネジアを予防するためです。
 
彼にも少量のドパミンアゴニスト(貼付剤)が処方されていましたが、伺うと、「貼ると気分が落ち着かなくなるのでほとんど使っていない」様子でした。多くのレボドパを内服してジスキネジアが出てしまっている状態に、ドパミンアゴニストを加えると、効きすぎが助長され、「気分が落ち着かなくなる」のは尤もなことです。
 
ドパミンアゴニストを上手に利用すると、24時間通して「全体の底上げ」が可能となります。ウェアリング・オフやジスキネジアは、基本的にレボドパの濃度が安定しないために起こってしまいますが、ドパミンアゴニストでドーパミン濃度が底上げされると、毎回のレボドパの容量を減らすことができるようになります。そうすると、結果としてドパミン濃度が安定しやすくなり、ウェアリング・オフやジスキネジアも減っていくことでしょう。少しでも調子よい時間が増え、彼とご家族の満足が高まるよう、薬剤の調整がはじまりました。
 

 ~ニセコ湖沼 長沼からのチセヌプリ

廣谷 真

廣谷 真Makoto Hirotani

札幌パーキンソンMS
神経内科クリニック 院長

【専門分野】神経内科全般とくに多発性硬化症などの免疫性神経疾患、末梢神経疾患
眼瞼けいれん・顔面けいれん・四肢の痙縮に対するボトックス注射も行います。

【趣味・特技】オーケストラ演奏、ジョギング、スポーツ観戦、犬の散歩